中学の同級生から同窓会のハガキが届いた。
普段は忘れているけど、このハガキが来るたびに思い出す中学での出来事がある。
我ながら、私の学生時代はいい先生に出会ってきたなと思っている。
中学時代の担任の先生も、その一人。
今ではどこかの中学で校長先生をしているらしい。
私だけでなく、たぶん一番忘れずにいるのは、当時不良扱いされていた二人だと思う。
突然のビンタ
中学3年のある日、
怒った顔で教室に入ってきた先生が、この二人の名前を呼び、みんなの前でいきなりビンタをしたことがあった。
余りに突然の事に、
クラスのみんなは何が起こったかわからず、唖然。
でも、一番唖然としたのはこの二人。
「何で叩くんだ!!」
二人が先生を睨みつけると、
「お前達だろう ××したのは!」ものすごい形相で怒っていた。
何だったかは思い出せないけど、どうやら、職員会議で、生徒の問題行動として、この二人の話が出たらしい。
先生はそれを聞いて、怒りに任せ二人を殴ってしまった。
「俺たちそんなことしてねえよ 先生」
どう見ても、嘘を言っているような言い方ではない。
この言葉聞いて、先生の顔が青ざめた。
先生がとった行動
「何で俺たちだと思ったんだ?しらねえよ、そんな話」
「やってねえ」
「ふざけるな」
二人は先生を睨みつけている。
先生は、それを聞いて、顔を強ばらせたまま教室から立ち去ってしまった。
シーンと静まり返る教室で、みんなどうしたらいいかわからない。
怒りでいっぱいの二人と、温和だった先生の唐突な行動に驚き、とにかくみんな言葉を失ってしまった。
すると、
今出て行ったはずの先生が
すぐに教室に戻ってきた。
そして、まっすぐ二人の前まで行って、
土下座。
先生は床に顔を付けたまま
「すまなかった。
俺が間違っていた。
職員室でこの話を聞いた時、すぐにお前達だと決めつけてしまった。
そして確認もせずにお前達を殴ってしまった。本当に申し訳ない。
許してもらえるとは思っていないが、どうか俺を殴ってくれ」
二人は、驚きながら、その姿を黙って見ていた。
しばらく沈黙があった後、
「もういいよ先生。わかってくれたならそれでいい」
それでも先生は下を向いている。
「先生もう立ちなよ。わかったから」
二人が先生を立たせると、先生もこの二人も、涙ぐんでいた。
その三人を見て、教室の中の緊張感がほぐれ、私も泣きそうになったのを覚えている。
心からの謝罪
一度教室を出て、帰って来るまでの時間は、ほんの数分。
自分のしてしまったことに対して、どうするべきかを考えた時間だったんだと思う。
俺たちはやってないと言われ、
「そうか、すまなかった」とすぐに言っていたら、余りに言葉が軽すぎる。
先生の心の葛藤が、私達にも伝わってくるような行動だった
それから、この二人は決して先生を困らせるような事はしなくなった。
同窓会があれば、二人はこの先生に会いに来る。
もしかして二人にとって人生を変えた事件だったかもしれない。
普通、できるのかな?
生徒みんなの前で、自分の過ちを即座に認め、心からの謝罪。
先生の殴るという行為は、二人を傷つけた。
でも、この後にとった先生の行動は、二人に《信頼》できる大人の姿を見せてくれた。
間違いは誰でもする。
ここで、少しでもうやむやにしようとしていたら、この二人は先生を二度と信頼しなかったと思う。
私も、
同窓会のハガキが来る度、この出来事を思い出し、
「信頼される大人になっているか?」
そう、先生に問われている気がする。